NHK受信料収納業務の法人への委託~断った理由

 従業員20数人の小企業の社長をしています。社長といっても銀行への入金、ハローワークへの雇用保険の届出、トラブル処理など色んな仕事をしており、庶務兼社長といった立場です。

 

 先日当社に、NHKから「NHKと新規事業を始めませんか」と手紙で勧誘があり、さらに数日後、電話で重ねて勧誘がありました。

 

 内容をよくみたところ、現在の会社業務と関連性がなく、N国党の出現でNHKに対する風当たりが強くなっていて、事業内容も困難が伴うことからお断りさせていただきました。

 

 新規事業を立ち上げたいのはやまやまですが、この話にはさまざまな困難があります。

 

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NHKからの新規事業勧誘パンフ

NHKからのお誘いの業務内容

 業務の内容は、NHKから指定されるエリア内で視聴者の家や事業所等を1軒1軒訪問し、放送受信料の契約・収納業務を行うものです。

 

 具体的には、訪問員を採用・育成・管理業務等のマネジメントを行い、実績に応じ月単位に委託費を受け取るというもので、個人の収納員の仕事を法人に任せようとするものです。 

 

 NHK の受信料収入はここ5年連続で過去最高を更新中で、2018年度末の支払い率は81.2%に達しています。これは法人への委託の成果だと思います。

 

 ちなみに、NHK は受信料徴収のために800億円使っているともいわれています。

 

業務の困難性(お誘いを断った理由)

  NHK受信料の徴収をめぐっては、これまで様々なトラブルが起き、度々裁判でも争われています。

   

(1)受信料徴収の根拠

  NHKは公共放送のため、その運営はテレビ設置者の受信料で賄われています。そのことを担保するために放送法で受信契約と受信料が定められています。

【放送法64条1項】
 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
契約の義務規定で罰則はありません。
 
【70条4項】
 第六十四条第一項本文の規定により契約を締結した者から徴収する受信料の月額は、国会が、第一項の収支予算を承認することによつて、定める

と受信料の根拠が規定されています。

(2)受信料をめぐる争い

  このように法律で根拠が定めてられているにもかかわらず、これまでに受信料の徴収をめぐってはさまざまな訴訟が行われています。

 代表的なものは、

・ワンセグ利用者の受信料契約(契約義務が有る。確定)
・テレビ設置済み賃貸物件の受信料支払(支払い義務が有る。確定)
・「テレビが故障した」と通知するだけでの解約 (可能)

 

などがあり、訴訟が絶えません。

(3)N国党の出現

 元NHK職員の立花孝志氏が率いるNHKから国民を守る党(N国党)は、「NHKををぶっ潰す」などと標榜し、第25回参議院議員通常選挙の比例区において1議席を獲得、選挙区においても得票率2%を達成し公職選挙法と政党助成法上における政党となるなど国民から一定の評価を受け、NHKに対する風当たりも強くなっています。

(4)受信料徴収は合憲だか問題も

  最高裁はNHKの受信料の義務について、

憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なもの

と合憲判断を示していますが、判示の中で受信料の徴収にあたってNHKへの努力も求めています。 


◎NHKは、受信設備設置者に対し目的、業務内容等を説明するなどして、受信契約の締結に理解か得られるように努め、これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。

◎任意に受信契約を締結しない者との間においても、受信契約の成立には双方の意思表示の合致が必要というべきである。


と判示していますので、これをたてに被訪問者からの徹底抗戦も考えられます。

 おわりに

 弱小の小企業としては、新規事業は喉から手がでるほど欲しいところですが、受信料の徴収には法律が予想していない様々な問題点があり、家庭、事業所への訪問時にトラブルが予想されます。

 また、NHKに対する風当たりが強い情勢ですので訪問員の募集にも困難が伴いそうです。

 実績に応じて委託費が払われることは当然としても、今なお残っている受信料未払い者は強者ぞろいと思われますので、受信料の徴収は決して生易しいものとは思えません。

 このようなことを考えると、お断りしたことは妥当な判断ではなかったでしょうか。