安倍首相は今国会の所信表明演説で、高齢化社会に対応して70歳まで就業できる環境を整えていくと表明しました。
その環境整備の一つに、高齢者の就業を促進するための在職老齢年金(年金減額)制度を廃止する動きがあります。
在職老齢年金は、働き(給料をもらい)ながら年金も受給する制度です。ただし年金を全額もらえる訳ではなく、年齢によって年金が減額されます。
働くほど年金が減額されるため、高齢者の就労意欲をそいでいるというのが廃止の理由です。
働き手が長期的に減少が見込まれる中、高齢者を活用していくのも確かに重要ですが、在職老齢年金の廃止には若い世代の年金への影響など様々な問題があります。
在職老齢年金の現状
この制度は65歳を境に大きく異なります。
60歳から64歳は、
一方、65歳からは
65歳未満の方は、合計額が28万円ですので、例えば年金が13万の方は15万円の給料以上は減額されることになります。
このような制度のため、60歳を超えて働く高齢者は15万円の給料以上を働くことを望みませんし、雇用する会社も高齢者(再雇用者)の給料を15万円で抑えているのが現状です。
廃止には年間1兆円超の財源が必要(若い世代に影響)
厚生労働省の資料などによると、60歳から64歳の対象者は約88万人おり、65歳以上は約36万人います。
この在職老齢年金制度により、1兆1千億円の年金が抑制されています。これを廃止すると毎年1兆円1千億円の年金財源が減ることになり、その分若い世代の年金が少なくなります。
廃止時期によって不公平が生じる
現在、国民年金の受給開始年齢は65歳です。厚生年金も国民年金に合わせて65歳受給とすべく現在は段階的に移行している最中です。
今年60歳の男性の場合、特別支給の厚生年金をもらい始める年齢は63歳です。
廃止時期によって年金がカットされた者とされない者が出て、同じ保険料を払ったのに受給金額に差が出て不公平が生じます。
厚生年金の支給開始年齢が65歳に完全移行するのは男性が2025年度、女性は30年度ですので、65歳以上の在職老齢年金の問題は残りますが、2030年まで待てば在職老齢年金問題は解決します。
富裕高齢者にメリットが大きい
65歳以上の年金減額ラインの47万円という数字は、厚生年金保険を支払っている現役世代の平均給与の額です。
65歳以上で減額されているのは受給者のわずか1.4%で、企業の役員などが中心です。残り98.6%の高齢者には在職老齢年金を廃止するメリットはありません。一部富裕層が得するだけです。
若い世代と同じ47万円でも、高齢者は子育て、住宅などのローンも終わり出費が少なくなっています。加えて、厚生年金の保険料も給料の部分にかかる(受給している年金にはかからない)ため現役世代より少なくすみます。
現役世代の平均給与に合わすこと自体がそもそもおかしな話です。過去の高齢者優遇の名残でしょうか。
おわりに
厚生労働省は65歳以降については、在職老齢年金廃止と就業の促進に「明確な関係は見られない」としています。それなら、わざわざ在職老齢年金を廃止する必要はありません。高齢者の私としては、若い世代のことを考え現状維持が妥当だと思います。65歳以上の高齢者だけが得するわけにはいけません。