東京・池袋での高齢者暴走事件~被疑者は非常識だが逮捕の無理な理由

 今日出勤前にテレビを付けると、東京・池袋で旧通産省工業技術院元院長の飯塚幸三容疑者(88)が乗用車を暴走させ、松永真菜さん(31)と長女莉子ちゃん(3)をはね死亡させた事故で、警視庁が自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で書類送検したニュースが流れていました。

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画像:日刊ゲンダイより

  父親でご主人の松永さんは、この半年あまり大変な思いをされたと思います。亡くなったお二人のことが思い浮かび夜も眠れなかったのではないでしょうか。これからも一生脳裏から離れることはないでしょう。

 

 これに対し加害者の飯塚容疑者は、某局の単独インタビューを受ける中で、自分の体力に自信があり少し過信があったと述べるとともに

自動車メーカーが高齢者が安心して運転できる車を開発して欲しい

などと、車の性能に問題があったかのような発言をしていました。

 

 その後、謝罪もしていましたが、心からの謝罪とはとても思えず、なんと非常識な男だと思いました。

 

 このためコメンテーターから激しい非難が相次ぎ、中には、上級国民だから警察は手加減し逮捕しなかった。逮捕するべきだったなどと発言するコメンテーターもいました。

 

 被害者感情から逮捕せよというコメンテーターの心情も理解できますが、逮捕は個人の自由を制限し人権を侵害しますので、慎重な運用が求められます。

 

 法律に照らせば、今回の場合は逮捕できなかったと思います。どうしてでしょうか。

逮捕が無理な理由 

 人を逮捕するには、逮捕の要件である逮捕の理由と逮捕の必要性が必要です。根拠は

刑事訴訟法と刑事訴訟法規則に規定があります。

【刑事訴訟法 第百九十九条】 
2項 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない

 

と規定されています。また、この規定を受けて

【刑事訴訟法規則 第143条の3】
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

 

とされています。

 要するに被疑者を逮捕するためには、逮捕の理由のほかに逮捕の必要性である

◎逃亡のおそれがあるとき

◎証拠隠滅のおそれがあるとき

のどちらかが必要です。

 

 池袋事件の飯塚幸三容疑者の場合は、事故を起こして人を死亡させていますので、逮捕の理由は明らかですが、

 定まった住居がありますし、年齢が88歳と高齢でとても逃亡できるとは思えまん。

 

 当初ブレーキとアクセルの踏み間違いを否認していましたが、事故車両が押収されていますので証拠隠滅のしようもありません。

 

 このように法律に照らして考えると、逮捕状を請求したとしても却下されたと思います。

 ただ、工業技術院元院長という立場が有利にはたらいたことも事実です。一般会社員で退職した人よりは社会的地位があり、顔も売れているため逃亡のおそれがないと判断する条件になるからです。

おわりに 

 今回の事件では、処罰を求める署名に多数の方が賛同し署名をしています。警察も起訴相当の意見をつけて送致したようです。

 

 事件の重要性、最初に否認するなど本人の反省が少ない点などを考えると起訴されるのは間違いないと思います。

 

 起訴され有罪となり実刑になると、場合によっては高齢のため刑務所から出てくることとなく刑務所で死亡ということも考えられます。

 

 しかし、犯した罪の重さを考えるとそうした償いは当然ではないでしょうか。